田中佐次郎‥‥純粋な芸術性を求める
佐次郎作品を手にとると“芸術とは人である。人格である”と、つくづく思い知らされる。
たとえ粗放になりやすい土を使っても躍動感ある明快で小気味よき造形を創り出して、格調の高さを堅持するからだ。
五十数年前に燃えさかる焔をも感じさせる縄文土器に興味を持たれ、その発掘調査研究をされた。
さらに土に結縁する陶人として宿命づけられたかのように茨を払って拓いた山瀬で“陶禅一味”の生活を送りはじめ、「土を練ることこそは心を養う」と、人格の研鑽を基としてしぶとい(・・・・)土と炎と闘い続けている。
「昔のものよりも良いものを作らなければ意味がない」と力感溢れた古唐津を再現し、朝鮮の蔚山では深く思慮して気品ある高麗茶碗のすべてを本歌超えしたといっても過褒ではあるまい。
八海天目 茶碗 唐津石はぜ茶碗
ここ数年、過去に蓄積し温存したものすべてが堰を切って奔流したかのように古陶の範疇を超えた新たな美意識を創生している。それは誰もが成し得ない人の心を揺さぶる独特のえぐみ(・・・)を醸し出す雰囲気をもつ釉調であり、順風を孕んで五十数年の切磋琢磨の結晶がもたらす“いぶし銀”の味でもある。
諄いようだが、理論が先行して作品が後回しなるものが多い中に、自らの道を黙々と創り出し、その仕事で思想を語っている田中佐次郎の美学は別格であるといえるだろう。
2017年霜月 黒田草臣
田中佐次郎 徳利・ぐい呑…