北大路魯山人の信楽と伊賀

 ”無意識の美”ともいえる その巧まないおおらかさが信楽壺最大の魅力だ。 胴が膨らんで裾のつぼまった室町期の大壺‥‥土味の緋色と石ハゼ、素朴な飄逸さなど信楽の魅力を湛え、「猛々しい」と思わずうなるような古信楽の壷である。 古信楽壷 /室町時代 Jar, Old-Shigaraki/ Muromachi period (径39.5 ×38.6 ㎝ 高41.3㎝)   窯内の温度が1200度以上になると原土に含まれている大小の長石が吹き出してくる。さらに木節粘土に含まれている植物性の炭化物が燃えて小穴ができた“うに”。信楽の土肌に“ふりもの”とか“なたね”、“ゴマ”という霧吹きで吹いたような自然釉、そしてそれが集まって溶け出したビードロの濃淡。灰が釉化して溶け出し、数条のビードロが景色を作り、燃料の薪が当たって黒く炭化した窯変などの景色は格別な表情をみせくれる。眺めているうちに、その肌に触れたいと衝動にかられるのも信楽土の良さである。紐作りで立ち上げた胴体部分の肩から絞って、口縁だけは轆轤を使っているので、左右不対称の胴体に比べて硬さの残る口つくり。この口造りをみて、「落ち着かない」と数寄者は嫌い、口縁に薄い布団をかぶせ叩き割ったという。信楽の壷は常滑や丹波などほかの”日本六古窯”にない土の香りを放散させている。 ☆ 北大路魯山人作 信楽建水 / KITAOJI Rosanjin Waste-water container, Shigaraki魯山人作 信楽建水 (径18…

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【魯山人と古美術】Rosanjin and Antiques ‥‥ 李朝彫三島蓮文扁壷

朝鮮半島西南部に位置する栄山江(えいさんこう・ヨンサンガン)の流域を中心に、倭国固有と思われていた前方後円墳が 1983年以後に次々に発見されている。 これは三韓の一つ馬韓全体を支配した百済と倭国との交流を物語る前方後円墳であり、全羅北道高敞(コチャン)郡と全羅南道広州(クァンジュ)市、霊光(ヨングァン)郡、潭陽(タミャン)郡、咸平(ハムピョン)郡、霊岩(ヨンアム)郡と海南(ヘナム )郡、康津(カンジン)郡、羅州(ナジュ)郡を含めた栄山江流域を中心に5世紀後半から6世紀前半に築造され、15か所以上に分布している。海南の長鼓峰古墳は長さが82m、高さは9mに達し、慶州の大型古墳より大きい韓国国内最大級の墳墓だ。それぞれの前方後円墳からは倭国の大量の埴輪、土師器や須恵器などが出土している。 栄山江は多島海に面する木浦(モッポ)港にそそぐ。港からの遠望は大きな湖の様に波が穏やかで夕日が美しいところだ。百済時代には中国の長江文化をこの港から採り入れ、栄山江流域では焼成法や成型技術が伝わって百済陶質土器が焼かれ、移民によってわが国の須恵器誕生の一角を担った。その後の高麗時代には越州窯青磁の技術が伝来し、全羅北道の扶安や全羅南道康津に伝播して高麗青磁を誕生させていく。 こうして李朝初期には朝鮮半島では康津の高麗青磁官窯の技術が宝城湾に面した宝城郡道村里や高興郡雲垡里へ伝わり、粉青沙器の三島や刷毛目のほか、この地方だけの粉引の誕生につながったと考えられる。 上質の粉引を焼成した宝城道村里や雲垡里(ウンデリ)…

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魯山人『日月椀』 ‥‥ 魯山人と古美術展

魯山人の漆芸を象徴する 一閑張による「日月椀」である。 一般的な一閑張は和紙を張り重ねて漆で仕上げた軽いものをいうが、篆刻・書・陶芸で魯山人の世界を創りだした魯山人………。漆芸でも革新的な手法を取り入れ、この椀は山中塗の辻石齋と尾張鳴海の薪絵師・稲塚芳朗を助手にして制作した。丈夫さを求めた魯山人はまず、優れた耐久性をもっている欅材を使っている。欅は日本の代表的な広葉樹、三十年間、充分に自然乾燥させた素材をもとめ、これを轆轤で極めて薄く挽かせ、成型した木地に糊漆(でんぷん粉に生漆)で和紙を張ってのち、乾燥をまって何度も漆を塗り重ねる技法で制作している。さらに金沢の箔打ち師に金箔と銀箔を特注して通常より厚みを倍以上にさせた。その上に金銀箔の砂子を蒔いた。表情をだした金箔、銀箔を真円に裁断して糊漆で張った。ここに一閑張の金銀箔にも微妙な皺ができる。 暖かみを持たせたふくよかな椀なり、雅味溢れる金箔は”陽の太陽”と銀箔は”陰の月”を表し、森羅万象の調和を表現した。当初は銀箔のみできれいな丸(真円)ではなかった。しかも銀は酸化して黒くなるので一枚おきに金箔を使うようになった。この仕事は神経を使って念入りに制作しなくてはならない。手間暇がかかる塗師泣かせの仕事であった。照りのある真塗りに輝く金銀は派手になり、肌触りに加えて質感が相応しくないと魯山人はいう。これらが用を重んじた魯山人芸術の漆芸に対する真骨頂である。        文:黒田草臣 日月お王ん 五客 / Lacquer wa…

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