直木美佐

親しくしていた直木美佐さんが5月13日に急逝された。

デザイン関係の会社に勤められていた美佐さんが楽茶碗を制作するようになったのはご尊父の直木友次良先生の影響である。

古美術、とくに乾山の研究家でもあった直木友次良は日本画家であり、名利にこだわらず我が道を行く楽茶碗の名手でもあった。

日常の会話からも、芸術に美術工芸に精通した素敵な親娘であった。

直木友次良の古美術雑誌「新しい眼」3号の「琳派特輯」の表紙。題簽:小林古径


 直木友次良作 画像 黒楽「寿老人」茶碗

1981年よりしぶや黒田陶苑にて個展開催。1989年10月、「直木友次良展」出品作。




2022年2月16日から21日まで日本橋三越本店 本館6階 特選画廊に於て「直木美佐茶陶展」が開催された。

三越本店では三年ぶり11回目の個展‥‥

毎回のように推薦文を書かせていただいていた。

昨年の個展での拙文である。



手練の技に心を砕く


茶の湯が侘茶とともに流行した天正の昔‥‥

茶道具の拝見を通じて数寄者としての目利きを養う秘伝書とされる『山上宗二記』に

「唐物茶碗はすたれ、近頃は朝鮮の高麗茶碗、今ヤキ茶碗、瀬戸茶碗など形さえよければ茶道具としてよい」とある。

〝今ヤキ茶碗〟とは天正年間に突如はじまった楽茶碗のこと。

利休との思想が一致した秀吉が聚楽第を建設した時に掘り出された土を使って、渡来茶碗のような轆轤で作られたものでなく、手造りし、急熱急冷という新技法であった。

楽茶碗を愛し制作される楽土会・志土呂会を主宰されておられた叔父の江川拙斎、そして父・直木友次良に師事されて楽茶碗一筋

‥‥既に五五年の作陶生活である。

昨秋、澄み渡った水平線に伊豆大島がくっきりと浮かぶ稲村ヶ崎の陶房を訪ねた。

ここに窯を構えられてから四〇年、日々の晴雨、気温、湿度、風速、波の音などその日の気象の変化への心配りを視野において土と対峙し、

一点一点焼いては引き出す窯焚をどれほどされてきたのだろうか。

黒楽茶碗は粘土を手捏ねして箆を使って仕上げ、素焼ののち加茂川上流に産出した真黒石を砕いて上釉とし、

火力が強い松薪炭などを燃料に基本に則る造形と焼成をしている。

「焼いては壊し 焼いては壊す」という直木は成功率一割以下という窯焚に失敗を恐れず一人で挑んでいる。

通常の楽茶碗焼成温度を超える一二五〇度以上という高温、

さらには二度も三度もその焔を潜り抜いてきた力強さが創造性と風格を放っている。

直木美佐黒楽茶碗「波の花」(撮影:大屋孝雄)

コロナ禍ということもあり、三越では四年ぶりの個展。今年は10回目となる。

その図録の撮影用に自選されていた新作の茶碗を左掌にのせ、右手を添えてみた。

柔らかな手ざわり、掌に包み込まれる、その手練の技の中に独自の境地を織り込んでこられたのだと思う。

「絶妙な窯変‥‥これぞ、今ヤキ茶碗だ!」と思わずいえば、「父から授かった加茂川石のおかげ!」と謙遜される。


直木美佐赤楽茶碗「西芳寺」(撮影:大屋孝雄)

一方の赤楽茶碗の肌も色艶の調子にも気品を湛え、渋く美しい釉景の変化が巧まずしてみごと、茶の湯を楽しく堪能できると思った。


自然を尊ぶ直木美佐が、茶碗造りへの創意に心を砕いた潔い気迫によって、

見所たっぷりな、まさしく新たな楽茶碗を誕生させたことに疑うべくもない。

               黒田草臣



次回の個展にむけて茶碗造りがはじまっていた 矢先、5月に病魔に襲われた。
5クールの治療。
11月10日、藤沢にエアコンを買いに行く。

完治した退院を喜び、作陶開始。
今年の元日、自宅からの稲村ケ崎の初日の出の写真を送ってきた。
1月8日にお弟子さんに手伝ってもらいながら焼いた「黒楽の水指」の写真を送くられてきた。。

直木美佐作水指.jpg黒楽水指
「窯のイタズラで面白いのが焼けたと勝手に思い、嬉しくなって送ってしまいました。誉めて頂けヨカッター」。

3月11日、
「昨日 焼けた茶碗です。楽という概念にとらわれず、好きなようにやりはじめました」と、新作の黒楽茶碗を添えたメールが来た。


   

文字通り”幻”となってしまった新作の三碗である。
再発して再入院、
5月12日金曜日、「元気になりました。14日の日曜日に退院します」と最後のメールが届き‥‥、
「よかったね! こちらもエンジンを掛けないといけないね」と、返信していたのですが、、、

 

 ‥‥直木美佐さんの在りし日の姿を偲び、心よりご冥福をお祈り申し上げます    合掌

                                 


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