
一般的な一閑張は和紙を張り重ねて漆で仕上げた軽いものをいうが、篆刻・書・陶芸で魯山人の世界を創りだした魯山人………。
漆芸でも革新的な手法を取り入れ、この椀は山中塗の辻石齋と尾張鳴海の薪絵師・稲塚芳朗を助手にして制作した。
丈夫さを求めた魯山人はまず、優れた耐久性をもっている欅材を使っている。
欅は日本の代表的な広葉樹、三十年間、充分に自然乾燥させた素材をもとめ、これを轆轤で極めて薄く挽かせ、
成型した木地に糊漆(でんぷん粉に生漆)で和紙を張ってのち、乾燥をまって何度も漆を塗り重ねる技法で制作している。
さらに金沢の箔打ち師に金箔と銀箔を特注して通常より厚みを倍以上にさせた。その上に金銀箔の砂子を蒔いた。
表情をだした金箔、銀箔を真円に裁断して糊漆で張った。ここに一閑張の金銀箔にも微妙な皺ができる。
暖かみを持たせたふくよかな椀なり、雅味溢れる金箔は”陽の太陽”と銀箔は”陰の月”を表し、森羅万象の調和を表現した。
当初は銀箔のみできれいな丸(真円)ではなかった。しかも銀は酸化して黒くなるので一枚おきに金箔を使うようになった。
この仕事は神経を使って念入りに制作しなくてはならない。手間暇がかかる塗師泣かせの仕事であった。

照りのある真塗りに輝く金銀は派手になり、肌触りに加えて質感が相応しくないと魯山人はいう。
これらが用を重んじた魯山人芸術の漆芸に対する真骨頂である。 文:黒田草臣

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黒田草臣BLOG「陶 奈なめ連れづれ」 (kusaomi.jp)
この記事へのコメント
吉岡 研一
実は、伊万里陶苑の長方形の祖皿で、魯山人の日月椀の意匠を借用したのを見たことがあります。真ん中で朱と黒に塗分け、朱は銀色、黒は金色の円を描いたものです。椀と違って、表面は鏡のように光沢がありました。